東京高等裁判所 昭和40年(う)213号 判決
被告人 海老沼弘
〔抄 録〕
所論は、原判決の判示第一の事実の認定には誤認があるというのであるが、原判決挙示の関係証拠によれば、原判示第一の事実はその証明があるとするに十分であり、所論に徴し記録を精査しても、原判決には判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認があるものとは考えられない。所論は、被告人らの暴行に堪えかねた被害者鄭鐘泰が助けを求めて被告人にしがみついてきたので、被告人はかわいそうに思い以後暴行の意思を失い高橋弘三らの暴行の制止につとめこれを停止せしめたので、殴り倒されていた鄭がこと終れりと考え立ち上つたところ、高瀬正雄が突如所携の軽便かみそりをもつて鄭の顔面に切りつけ、同人に原判示の傷害のうち左側顔面切創の傷害を負わしめたのである。されば、被告人が前記暴行制止の行動に出る前までの間に爾余の共犯者が同人に加えたであろう暴行によつて生じたと推定できる原判示打撲傷及び裂傷の傷害につき共犯としての責任を負うことを否むものではないが、暴行の制止に努めるようになつた以後の高橋弘三らの鄭に対する傷害についてまで被告人の責任が及ぶいわれはない。殊に高瀬が軽便かみそりを携帯していたことは被告人の全く知らなかつたことであるから、同人が軽便かみそりをもつて鄭に与えた前示傷害について被告人に責任のないことは明らかであるというのである。しかし原判決挙示の関係証拠によれば、被告人は原判示古河市立第一小学校庭で高橋弘三らが鄭に対し暴行を加えることを了知の上右高橋らと意思を通じて共に鄭に暴行を加えたものであつて、最終段階において高瀬により軽便かみそりをもつて加えられた前示暴行もその以前の暴行に引続いてなされた一連の行為と認められるのであり、この一連の行為により鄭が原判示第一の傷害を負うに至つたことは明らかである。仮りに被告人が高橋弘三らの暴行の制止につとめたとしても証拠上これにより同人らの暴行を停止せしめたことは認め得ないのであるから、被告人が左様な行動に出るようになつた以後の高橋弘三らの暴行による傷害について責に任ずることは勿論にして、また、被告人と高橋弘三、高瀬正雄らとの間に前記の如く鄭に対する暴行の共謀がある以上、被告人において高瀬が軽便かみそりを携帯していたことを全く知らなかつたとしても、同人の右かみそりによる前記傷害について責任のあることはいうまでもないから、原判決には所論の如き事実誤認の違法は存しない。論旨は理由がない。
(久永 井波 小俣)